組織内の知見やノウハウを活かすナレッジマネジメント(Knowledge Management)は、日本発の経営理論です。ナレッジマネジメントが誕生した背景には、コンピューターやインターネットの普及、団塊の世代をめぐる危機感など、さまざまな歴史があります。ナレッジマネジメントを取り入れる前に、簡単な歴史や発展の流れをおさらいしておきましょう。この記事では、ナレッジマネジメントの歴史やこれからの展望、最新のナレッジマネジメント事例を解説します。
目次
ナレッジマネジメントの歴史
ナレッジマネジメントとは、組織内の知見やノウハウを経営資源としてとらえ、新たな知識を生み出す経営モデルです。ナレッジマネジメントはいつ頃生まれたのでしょうか。ナレッジマネジメントの提唱者は、1990年代にSECIモデルなどの理論を発表した経営学者の野中郁次郎氏といわれています。ナレッジマネジメントの歴史を紐解くと、原型となる考え方は1980年代に誕生しています。ここでは、ナレッジマネジメントが今日に至るまでの歴史や、発展の流れを簡単に見ていきます。
【1980年代】コンピューターの誕生とナレッジマネジメントのはじまり
ナレッジマネジメントのはじまりは、コンピューターの業務利用が進んだ1980年代にさかのぼります。コンピューターが普及した結果、有用な知識を蓄積したり、共有したりできるようになりました。組織内の知見やノウハウを「資産」としてとらえる考え方が生まれたのも1980年代とされています。
【1990年代】インターネットの普及とナレッジマネジメントへの誤解
1990年代に入り、インターネットが広く普及した結果、情報共有がますます容易になりました。ナレッジマネジメントの中核となるSECIモデルが提唱されたのも1990年代です。一方、1990年代はナレッジマネジメントへの誤解が進んだ時期でもあります。ナレッジマネジメントの導入を掲げながら、単なる情報システムの整備にとどまった企業が多く見られました。
【2000年代】ナレッジマネジメントへの正しい理解が進む
2000年代になると、ナレッジマネジメントへの正しい理解が少しずつ広がりました。ナレッジマネジメントは情報システムを整備しただけで実現できるものではありません。ナレッジ共有を推進するナレッジリーダーの設置など、ナレッジマネジメントを実現するための組織風土づくりに重点が置かれるようになりました。
【2010年代】AIやビッグデータなどの先端テクノロジーの導入
2010年代はAIやビッグデータなどの先端テクノロジーが登場した時代です。企業は高機能なナレッジ共有システムを活用し、より一層ナレッジマネジメントに取り組むようになりました。また、テレワークやリモートワークが普及し、オンラインでナレッジを共有する仕組みが必要になったことも、ナレッジマネジメントの需要を高めた理由です。
これからのナレッジマネジメント
ナレッジマネジメントはコンピューターの業務利用やインターネットの普及、AIやビッグデータなどの先端テクノロジーの導入を経て、多くの企業で取り入れられています。ナレッジマネジメントの基本は、1990年代に提唱された「SECIモデル」です。SECIモデルは、ナレッジマネジメントを「暗黙知から形式知への変換」として定義する理論を指します。
暗黙知 | 職人の勘・コツなど、感覚的な知識やノウハウ |
形式知 | 図やマニュアルなど、言語化できる知識やノウハウ |
SECIモデルでは、暗黙知を形式知に変換するプロセスを4つに分けています。
共同化(Socialization) | 社員同士で同じ体験を共有し、暗黙知を感覚的に理解する |
表出化(Externalization) | 暗黙知を図やマニュアル、動画などで表現し、形式知化する |
連結化(Combination) | 形式知化した知識を組み合わせ、新しい知識を創造する |
内面化(Internalization) | 生み出した知識を体験する機会を設け、再び暗黙知として理解する |
SECIモデルを取り入れる際に役立つのが、ナレッジ共有システムと呼ばれるツールです。たとえば、FAQシステムを導入すれば、有用な知見やノウハウをよくある質問(FAQ)として形式知化し、社内で共有できます。ナレッジマネジメントをより円滑に取り入れるため、FAQシステムをはじめとしたナレッジ共有システムの導入を検討しましょう。
最新のナレッジマネジメント事例
ここでは、ナレッジマネジメントの導入を検討している企業向けに、最新のナレッジマネジメント事例を2つ紹介します。
ニチバン株式会社の事例
文具やテープ材を販売するニチバン株式会社は、顧客対応に以下のような課題を抱えていました。
- 顧客対応に必要な商品知識が多く、新しく入った社員が覚えきれない
- 顧客対応のノウハウが属人化しており、社員間で共有されていない
ニチバン株式会社は文具や医療用品など4分野の商品を取り扱っており、顧客対応に必要な商品知識は過去10年分×4分野と多岐にわたっています。これまでは製品カタログをベースにしながら、お客様相談室の社員一人ひとりが独自に顧客対応のノウハウをメモする形をとっていました。しかし、「顧客対応に時間がかかり、お客様をお待たせしてしまう」、「新しく入った社員が顧客対応のノウハウを身につけるのに時間がかかる」といった弊害が生じたため、ナレッジマネジメントを取り入れました。ナレッジ共有システムを導入し、40冊分のカタログをデータベース化した結果、商品知識をスムーズに検索できるようになりました。また、お客様相談室の社員が蓄積してきたメモをFAQ化し、顧客対応のノウハウを共有することにも成功しています。結果として、顧客対応の品質やスピードが向上し、製品へのクレーム件数が減少しました。
スーパーサンシ株式会社の事例
三重県を中心にスーパーを展開するスーパーサンシ株式会社は、従業員教育にナレッジマネジメントを取り入れました。スーパーには精肉や惣菜などさまざまな部門があり、それぞれ作業工程が異なります。また、紙のマニュアルでは覚えきれない作業も多く、どのように作業のコツや進め方を共有するのかが課題となっていました。そこで、スーパーサンシ株式会社はナレッジ共有システムを導入し、作業工程を動画マニュアル化して共有する仕組みをつくりました。結果として、従業員教育の効率が高まり、食料品店に欠かせない安全衛生の強化にもつながりました。
【まとめ】
ナレッジマネジメントの歴史を知り、ナレッジ共有システムを活用しよう
ナレッジマネジメントは日本語で知識経営や知識管理と呼ばれ、1990年代に提唱されたSECIモデルを基礎に誕生した経営理論です。ナレッジマネジメントの原型となる考え方は、コンピューターの業務利用が進んだ1980年代にまでさかのぼります。インターネットの普及や、AI・ビッグデータなどの先端テクノロジーの導入を経て、ナレッジマネジメントは今日でも多くの企業で導入されています。ナレッジマネジメントを円滑に導入するには、FAQシステムや社内wikiといったナレッジ共有システムの活用が必要不可欠です。この記事で紹介した導入事例を参考にしながら、ナレッジマネジメントを取り入れましょう。