経済産業省が2018年にDXレポートを発表して以来、さまざまな産業分野でDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んできました。コールセンターも例外ではありません。コールセンター業界は、慢性的な人手不足や離職率の高さといった課題を抱えてきました。DXを推進し、コールセンター業務のあり方を見直すことで、さまざまな課題の解決につながります。この記事では、コールセンターがDXに取り組むべき理由や、DXを推進するメリット、DXを実現するための手順や注意点について解説します。
目次
コールセンターがDXに取り組むべき理由
DXの推進を目指し、CRM(顧客管理システム)やIVR(自動音声応答システム)、チャットボットシステムなどのITツールを導入するコールセンターが増えています。そもそも、なぜ多くのコールセンターがDXに取り組んでいるのでしょうか。DXを推進し、業務プロセスを改革すれば、コールセンター業界ならではの課題を解決できます。
- オペレーターの離職率の高さ
- 慢性的な人手不足
- 長時間労働の蔓延
- テレワークやリモートワークへの対応
- コール量の繁閑の差への対応
- 問い合わせ経路の多様化への対応
- セールス部門やマーケティング部門との連携
たとえば、顧客対応にAIやチャットボットを活用し、DXを推進している損害保険ジャパン株式会社の事例を見てみましょう。[注1]
DXの例 | 効果 |
音声認識システムを用いた自動応答 | 顧客対応の2~3割を自動化 |
AIを用いた回答候補の表示 | 顧客対応品質の平準化 顧客対応時間の短縮 |
チャットボットの導入 | 営業時間外の顧客対応を実現 |
このようにコールセンター全体でDXを推進すれば、さまざまな経営課題を解決することが可能です。
[注1] 日本経済新聞社:損保ジャパン、コールセンターをDX 対話要約もAIで
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB299L10Z20C21A7000000/
コールセンターがDXを推進する3つのメリット
コールセンターがDX推進に取り組むメリットは3つあります。
業務効率化を実現できる
DXを推進することで、コールセンター業務の効率化を実現できます。代表的なコールセンターのDXの例が、チャットボットシステムやFAQ管理システムをはじめとしたセルフサービス型のカスタマーサポートの導入です。顧客がチャットボットやFAQページで問題や悩みを自己解決するため、コールセンターへの問い合わせ件数が減少し、オペレーターの業務負担を軽減できます。
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従業員満足度が向上する
コールセンター業界の離職率が高い原因として、業務量の多さや顧客対応のストレス、慢性的な長時間労働などが挙げられます。コールセンターの業務効率化を実現し、オペレーターの業務負担を軽減することで、こうしたコールセンター業界特有の課題を解決できます。オペレーターのワークライフバランスを改善し、従業員満足度を向上させることが可能です。
顧客満足度が向上する
コールセンターのDXを実現すれば、顧客満足度の向上にもつながります。近年、コールセンターでは顧客の行動履歴や問い合わせデータを有効活用し、顧客一人ひとりに合わせたカスタマーサービスを提供しようとする動きが見られます。たとえば、カゴメ株式会社は定期購入者の誕生日などのライフイベントに合わせて、オペレーターが商品やノベルティグッズをプレゼントする施策を実施しています。
コールセンターがDXを実現するための手順
コールセンターがDXを実現するための手順は、大きく3つのステップに分かれます。重要なのは「DXを実現すること自体が目的にならないこと」です。まずは、DXによって解決すべき課題を洗い出すところからスタートしましょう。
現状の課題を洗い出す
まずは、現状の課題を洗い出しましょう。たとえばコールセンターの場合、次の3つの領域でDXが実現できないか検討してみましょう。
業務プロセス | 現状のオペレーションに問題はないか |
顧客対応 | 顧客とのコミュニケーションに問題はないか |
問い合わせ履歴 | 問い合わせ履歴を有効活用できているか |
なるべく経営層も巻き込み、DXの方針を決める
部署やチームごとにDXに取り組むだけでは、コールセンター全体の課題解決にはつながりません。コールセンターのDXを実現するには、なるべく経営層を巻き込みながら、全社的なDX戦略を立案することが大切です。実際に情報処理推進機構の「デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進に向けた企業とIT人材の実態調査」によると、DXの成果を実感している企業ほど「全社戦略に基づいて全社的にDXに取組んでいる」割合が高いことがわかっています。[注2]
[注2] 情報処理推進機構:デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進に向けた企業とIT人材の実態調査
https://www.ipa.go.jp/files/000082053.pdf
できる範囲でデジタル化していく
しかし、いきなり業務プロセスや顧客対応すべてを刷新するのは困難です。タスクの優先順位を決め、できる範囲で業務のデジタル化に取り組みましょう。「低予算で実現可能なものからDXに取り組む」、「費用対効果の高い定型業務からDXに取り組む」など、スモールスタートを意識することがコールセンターのDXに取り組むポイントです。
コールセンターがDXを推進する際の2つの注意点
コールセンターがDXを推進する場合、CRMやIVR、チャットボットシステム、FAQ管理システムなどのITツールを導入するのが一般的です。ITツールを導入する場合は、現場のオペレーターにとって使いやすい製品を選びましょう。また、サーベイやアンケートを定期的に実施し、現場の意見を聞きながらDXに取り組むことが大切です。
ITツールを導入する場合は使いやすいものを選ぶ
コールセンターのDXに欠かせないのが、チャットボットシステムやIVRといったITツールです。
チャットボットシステム | 自動会話プログラムが顧客の問い合わせに自動で応対し、セルフサービスでの問題解決を実現 |
FAQ管理システム | 顧客からの問い合わせが多い事項をよくある質問(FAQ)としてFAQページにまとめ、顧客の自己解決を推進 |
IVR(自動音声応答システム) | 顧客からの電話に自動で応答し、音声案内や適切な問い合わせチャネルへの振り分けにより、オペレーターの業務負担を削減 |
ACD(Automatic Call Distributor) | オペレーターの空き状況や問い合わせ内容などの条件に応じ、顧客からの入電を自動で振り分けて業務効率化を実現 |
しかし、こうしたITツールを導入しても、操作しづらかったり画面が見づらかったりすれば業務効率化につながりません。コールセンターのDXのためにITツールを導入する場合は、「現場のオペレーターにとって使いやすいかどうか」を考えることが大切です。
サーベイやアンケートを実施し、なるべく現場の意見を聞く
オペレーターは日々の業務のなかで、自社の課題や問題点を発見しています。コールセンターのDXに取り組むときは、サーベイやアンケートを実施し、なるべく現場のオペレーターの意見に耳を傾けることが大切です。
【まとめ】
コールセンター全体でDXを推進し、経営課題の解決を目指そう
コールセンターの経営課題を解決するには、チャットボットやIVRなどのITツールを導入し、DXを実現する必要があります。コールセンター全体でDXを推進することで、業務効率化の実現や、従業員満足度や顧客満足度の向上が期待できます。まずは現状の課題を洗い出し、なるべく経営層も巻き込みながらDX戦略を立案しましょう。いきなり業務プロセスを刷新するのではなく、できる範囲でデジタル化に取り組み、スモールスタートを心がけることが大切です。