ナレッジマネジメント(Knowledge Management)とは、社員が持つ知見やノウハウを集約し、社内全体に共有して有効活用する取り組みを指します。業務改善や技能伝承、組織力の向上、業務の属人化解消などを目的として、多くの企業でナレッジマネジメントの導入が進んでいます。しかし、運用ルールの整備が不十分だったり、ナレッジベースが乱立したりと、当初の目的をなかなか達成できないと課題を抱える企業も少なくありません。ナレッジマネジメントを成功させるには、過去の成功事例や失敗事例から、成功法則や反省点を引き出すことが大切です。この記事では、ナレッジマネジメントの成功事例や失敗事例、ナレッジマネジメントを成功に導くポイントを解説します。
▶︎ ナレッジマネジメントとは?その重要性や手法を詳しく紹介
ナレッジマネジメント導入の成功事例4つ
まずはナレッジマネジメントを導入し、業務改善や生産性向上に成功した事例を4つ紹介します。
他社に先駆けてナレッジマネジメントを導入した事例
富士フイルムビジネスイノベーション株式会社(旧社名:富士ゼロックス株式会社)は、1990年代から他社に先駆けてナレッジマネジメントを実現してきた企業です。1997年10月に設立された社内ヘルプデスク「何でも相談センター」では、商品ラインナップの増加や顧客の相談内容の多様化に伴い、社内の営業マンからの問い合わせが多いことに課題を抱えていました。営業マンからの問い合わせに一つひとつ回答すると時間がかかるため、当時の富士ゼロックス株式会社は情報共有データベースを構築しました。これにより、ナレッジを効率的に蓄積できるようになり、業務効率化を実現しました。
「ナレッジポータル」などを導入し、業務改善に成功した事例
民間企業だけでなく、国や地方自治体でも積極的にナレッジマネジメントを導入しています。経済産業省の事例では、業務に役立つ知見やノウハウを省内で共有する「ナレッジポータル」を導入し、業務改善に成功しました。業務用のマニュアルや関連規定をナレッジポータル内にナレッジとして集約し、省内で共有することで、業務効率化を実現しました。マニュアルや関連規定の多い行政機関だからこそ、積極的なIT活用が業務改善につながっています。
blogツールを利用し、防災対応活動のノウハウ共有に取り組んだ事例
国土交通省でも、各職員の防災対応活動のノウハウを共有し、防災対応力を向上させるために、ナレッジマネジメントを用いています。国土交通省はナレッジマネジメントのためのツールとして、コンテンツの検索性が高く、編集機能を使って気軽に情報共有が可能なイントラネット用のblogツールに着目しました。blogツールで防災対応事例などを集積することで、従来のマニュアルだけでは補えない知識やノウハウを共有することができ、職員の教育に役立っています。自由度の高い全文検索や、記事のカテゴライズによって、情報の検索性を高める取り組みもおこなっています。
FAQ管理システムを利用し、社内FAQのコンテンツ鮮度向上に取り組んだ事例
株式会社ノーリツでは、膨大な社内FAQとその鮮度管理等、多くの課題を抱えていました。属人化された内製ツールをやめ、FAQ管理システムを導入することで、アクセスログやアンケートをもとに、膨大にあった社内FAQをブラッシュアップできるようになり、「みんなで作り上げるナレッジ」という風土づくりでコンテンツ鮮度の向上に成功しました。
▶︎ FAQ管理サービス「i-ask」 【導入事例】株式会社ノーリツ
ナレッジマネジメント導入の失敗事例2つ
ナレッジマネジメントに成功した企業がある一方で、うまく活用できなかったケースもあります。ナレッジマネジメントの失敗事例から反省点を分析しましょう。
運用ルールが浸透せず、誰もナレッジマネジメントツールを使わなくなった事例
ナレッジマネジメントを実施するためにツールを導入したA社では、運用ルールの整備が不十分であったことが失敗につながりました。ナレッジマネジメントのためにツールを導入したものの、運用ルールが浸透せず誰も使わなくなってしまい、知見やノウハウを十分に蓄積できませんでした。使われなくなってしまうと、コンテンツの精度が落ちてしまい負のスパイラルに陥ってしまいます。ツールを導入して終わりではなく、ナレッジマネジメントの導入目的や位置づけを浸透させながら、わかりやすい運用ルールの整備をおこない、社内の情報共有を促進するような仕組みづくりが必要です。
ナレッジベースが4,000件以上も乱立してしまった事例
一方、情報共有の文化が根付いていたB社の事例では、ナレッジベースが社内に乱立したためナレッジマネジメントの導入に失敗しました。B社はグループウェアを活用し知見やノウハウを蓄積していましたが、わずか1年で4,000件以上のナレッジベースが乱立し、必要な情報を必要なときに取り出せなくなりました。知見やノウハウをただ蓄積するだけでなく、体系的に整理し、ブラッシュアップしていく仕組みづくりも必要です。情報の精査やカテゴリー分け、検索機能の活用など、蓄積した情報をどのように活かすかという点にも目を向けましょう。
ナレッジマネジメントを成功に導く3つのポイント
ナレッジマネジメントを成功に導くポイントは3つあります。ここまで紹介してきた成功事例や失敗事例を参考に、知見やナレッジを効果的に活用できる仕組みをつくりましょう。
ナレッジマネジメントを浸透させ、風土づくりをおこなう
事例からもわかるように、ナレッジマネジメントを成功させるためには、利用対象となる社員全員に導入目的や位置づけが浸透するような働きかけと、風土づくりが大切です。ツールは手段に過ぎません。単に導入するだけではなく、利用者が活用したくなる仕組みづくりが、ナレッジマネジメントを育て、利用促進につながります。社内への浸透が難しい場合は、ナレッジマネジメントに関するKPIやインセンティブの設定も効果的です。
ツールを有効活用する
ナレッジマネジメントを内製でおこなうには限界があります。事例にあるようなblogツールやFAQ管理システムなどを活用するのもおすすめです。蓄積したナレッジは活用されてこそ、業務改善や技能伝承、組織力の向上、業務の属人化解消に役立ちます。必要な情報を素早く取り出せるような検索機能やコンテンツ精度を上げるための分析機能など、ツールにはナレッジマネジメントに役立つ機能が備わっています。ツールをうまく活用することで、ナレッジマネジメントを成功に導きます。
ナレッジリーダーを指名する
ナレッジマネジメントを導入し活用するには、運用ルールや運用フローを整備することも大切です。情報共有の文化を社内に定着させ、風土づくりをおこなうために、ナレッジマネジメントを導入する企業の多くが「ナレッジリーダー」を指名し、リーダーを中心にプロジェクトを進めています。ナレッジマネジメントの経験がある社員が中心となり、新入社員や経験の少ない社員を巻き込んでいくことで、ナレッジマネジメントの考え方を効果的に浸透させられます。
【まとめ】
ナレッジマネジメントを成功させるために成功事例や失敗事例から学ぼう
ナレッジマネジメントを成功させるためには、過去の成功事例や失敗事例を分析することが大切です。「運用ルールが浸透せず、誰もナレッジマネジメントツールを使わなくなった」、「ナレッジベースが乱立し、情報を活用できなくなった」など、ナレッジマネジメントの導入に失敗したケースもあります。ナレッジマネジメントを浸透させるためには、風土づくりをおこなったり、ナレッジリーダーの指名やツールの活用をしながら、知見やノウハウを効果的に活用できる仕組みをつくりましょう。