ナレッジマネジメントは「知識経営」とも呼ばれ、1990年代に日本で生まれた経営手法です。医療業界でも2000年代からナレッジマネジメントへの関心が高まり、最新の医療情報の共有や、インシデント情報の管理に取り組む医療機関が増えています。ナレッジマネジメントを導入すれば、医療事故を未然に防ぎ、患者の安全を守ることが可能です。医療現場におけるナレッジマネジメントの重要性を知り、導入に向けた準備を進めましょう。この記事では、ナレッジマネジメントの重要性や導入する際の注意点をわかりやすく解説します。
目次
医療現場におけるナレッジマネジメントの重要性
なぜナレッジマネジメントを取り入れる医療機関が増えているのでしょうか。医療現場でナレッジマネジメントを導入するメリットは4つあります。
- チーム医療を推進できる
- 最新の医療情報を共有し、医療サービスの質を高められる
- インシデントを共有することで医療事故を防止できる
- スタッフを短期間で即戦力化できる
ナレッジマネジメントを導入すれば、チーム医療の推進や医療サービスの改善につながります。また、インシデント情報をすばやく院内で共有することで、医療事故を未然に防ぎ、安心安全な医療体制を確立できます。
チーム医療を推進できる
チーム医療とは、「一人の患者に複数のメディカルスタッフ(医療専門職)が連携して、治療やケアに当たること」です。[注1]
医師や看護師だけでなく、薬剤師、臨床検査技師、作業療法士、栄養士などの多様な人材がチーム医療に関わることで、患者ファーストの医療サービスを実現できます。チーム医療を推進するうえで欠かせないのが、各医療専門職に情報を伝達する仕組みづくりです。ナレッジマネジメントを導入し、院内の情報やデータを一箇所に集める仕組みを設ければ、チーム医療に必要な情報共有基盤を確立できます。
[注1] チーム医療推進協議会:チーム医療とは
https://www.team-med.jp/specialists
最新の医療情報を共有し、医療サービスの質を維持できる
医療業界では、2年に1回実施される診療報酬改定(薬価をのぞく)や、新型コロナウイルスをきっかけとして成立した改正医療法など、定期的に法令や通達の変更が行われています。また、新しい医療機器を導入した場合、手順書やマニュアル、業務フローのアップデートが必要です。ナレッジマネジメントを実践すれば、最新の医療情報を現場レベルで共有できるため、法令の改正や医療機器の刷新が行われても医療サービスの質を維持できます。
インシデントを共有することで医療事故を防止できる
安心安全な医療体制を確立するためにナレッジマネジメントは必要不可欠です。特に現場レベルの気づきや違和感をインシデントとして共有することで、医療事故を未然に防ぎ、患者の安全を守ることができます。また、医療現場で実施した事故防止対策を共有すれば、さらに強固な安全管理体制を築くことが可能です。
スタッフを短期間で即戦力化できる
ナレッジマネジメントは新人研修にも役立ちます。ナレッジをデジタル化して共有すれば、新しい職員がPCやスマートフォンでナレッジを確認し、医療現場で役立つ知識を身につけることが可能です。ナレッジマネジメントを実践すれば、入ったばかりの職員を短期間で即戦力化することもできます。
医療現場におけるナレッジマネジメントの導入ポイント
医療現場におけるナレッジマネジメントの導入ポイントは2つあります。ナレッジマネジメントに使われるデジタルツールには、ナレッジをQ&A形式で共有するFAQシステムや、ブログ感覚でナレッジを掲載できる社内Wiki、院内のデータを検索するエンタープライズサーチなど、さまざまな種類のシステムがあります。こうしたナレッジマネジメントツールのメリットやデメリットを比較し、病院に合ったシステムを選びましょう。また、職員によってはインシデントを共有することを「恥ずかしい」、「責任を追求される」と感じる可能性があります。職員が情報共有しやすいようなルールづくりも大切です。
病院に合ったシステムを選ぶ
ナレッジマネジメントに役立つツールは、大きく分けて3種類あります。
- 最新の医療情報などを経営資産として蓄積し、経営戦略の策定をサポートするタイプ
- FAQシステムやチャットボットなど、職員や患者からの問い合わせ対応を効率化するタイプ
- 院内データを検索するシステムを提供し、目的の情報を探し出すためのサポートをするタイプ
医療機関の経営課題によって必要なツールは異なります。たとえば、新型コロナウイルス関連の問い合わせ対応を効率化したい場合、FAQシステムやチャットボットなどのツールが向いています。ナレッジマネジメントツールを導入するときは、病院に合ったものを選ぶことが大切です。
職員が情報共有しやすいようなルールを整備する
ナレッジマネジメントツールを導入するだけでなく、職員が進んで情報共有できるようなルールづくりも大切です。特に医療事故につながるインシデントの報告を求める場合、「失敗したと思われるのが恥ずかしい」、「責任を追求される」、「報告しても状況は変わらない」と感じる職員も少なくありません。インシデントの報告は「始末書」、「反省文」とは違うことをきちんと説明し、職員の理解を求めましょう。また、情報共有を推進するため、インシデントを匿名で報告できる仕組みをつくる方法もあります。
医療現場にナレッジマネジメントを導入するときの注意点
医療現場にナレッジマネジメントを導入するときの注意点は3つあります。
- 導入して終わりではなく適宜改善する
- 画像や動画を積極的に活用する
- 多様な職種を交えたナレッジマネジメントチームを設ける
ナレッジマネジメントは導入して終わりではなく、法令改正や新しい医療機器の導入などに合わせ、ナレッジを定期的に見直すことが大切です。ナレッジマネジメントツールを導入するときは、情報更新やメンテナンスなど運用のしやすさにも着目しましょう。また、画像や動画を掲載できるツールを導入すれば、ナレッジを視覚的にわかりやすく共有できます。特に医療機器の使い方や操作方法、医療行為の手順などのナレッジは、テキストだけでは説明しづらいため、積極的に画像や動画を活用しましょう。
ナレッジマネジメントを推進するために、専門のナレッジマネジメントチームを設ける場合があります。ナレッジマネジメントチームを設立する場合は、医師や看護師だけでなく、他の医療専門職や事務職員なども交えることで、さまざまな分野の知識をナレッジとして集約できます。
【まとめ】
医療現場の課題解決なら、ナレッジマネジメントを取り入れよう
ナレッジマネジメントを導入すれば、最新の医療情報やインシデント情報を院内で共有し、医療サービスの質を高めることができます。また、業務を円滑に進めるためのナレッジを共有し、新しく入ったばかりの職員を即戦力化することも可能です。ナレッジマネジメントは導入して終わりではなく、法令の改正や新しい機器の導入などに対応し、定期的に運用方法を改善していく必要があります。医師や看護師のほか、薬剤師、臨床検査技師、作業療法士、栄養士などの多様な人材を交えたナレッジマネジメントチームを編成し、ナレッジマネジメントのあり方を見直しましょう。