ナレッジマネジメントは、多くの企業に業務効率化や生産性の向上をもたらします。これは看護職においても同様です。看護職は他の職種と比較すると身体的かつ経験に基づく知識が多いため、ナレッジの共有が難しい傾向にあります。ここでは看護におけるナレッジマネジメントの必要性や導入時のポイント、注意点などを解説します。
目次
看護の現場におけるナレッジマネジメントの必要性
看護職は病院のなかでも人数が多い職種のため、ナレッジマネジメントによって知識を共有し、業務のクオリティを均一にすることが求められます。また、一部の看護師だけが把握している「属人化」した状態では、万が一のことが起きた場合に対応できないという危険もあります。そのため、看護の現場ではナレッジマネジメントによって知識と情報を共有しておくことが必要です。
看護職は身体的かつ経験に基づく知識が多い
ナレッジマネジメントを考えるうえでは、次の2つの「知」を意識する必要があります。
- 暗黙知:言語化できない知識
- 形式知:言語化できる知識
看護職は身体的かつ経験に基づく知識による業務が多いため、暗黙知として周りに共有しきれていない業務が多くあるといえます。
人材育成にも役立つ
日本人の平均勤続年数は11.9年(2020年)なのに対し、看護師は10人以上の施設であれば9.2年(2021年)、1,000人以上の施設であれば9.4年(2021年)と、平均よりも短いのが特徴です。[注1][注2]
このように、看護師は勤続中にどのように人材育成をして長く勤めてもらうかが課題です。そんななか、ナレッジマネジメントを導入することで無駄を省いた効率的な人材育成につなげられます。
[注1]独立行政法人 労働政策研究・研修機構「平均勤続年数」
https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/timeseries/html/g0213_01.html
[注2]厚生労働省「令和3年賃金構造基本統計調査」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2021/index.html
看護の現場にナレッジマネジメントを導入するときのポイント
看護の現場でナレッジマネジメントを導入する際は、病院や現場に合ったシステムを選ぶことに加え、現場からの理解を得ておくことがポイントです。現場が理解していない状態では、有益な情報を集められないでしょう。
病院や現場に合ったシステムを選ぶ
看護の現場でナレッジマネジメントを導入する際は、病院や現場の状況に応じたシステムを選びましょう。たとえば病床をはじめ、さまざまな場所で作業をする看護師にとっては、スマートフォンやタブレットですぐに業務の流れや注意点などを把握できるシステムが効果的です。また、身体的になりがちな看護の業務のナレッジをわかりやすく伝えるには、動画や画像をアップできるシステムがおすすめです。
現場への周知を徹底しておく
ナレッジマネジメントを導入する場合、導入目的や使い方、操作方法など、現場への周知を徹底しておくことが大切です。ナレッジを蓄えるという業務が加わるため、現場の理解を得てから導入しましょう。必要に応じて、システムの利用方法を周知するためのセミナーや説明会の開催も検討しましょう。
看護の現場にナレッジマネジメントを導入するときの注意点
看護の現場では、専用のシステムを導入するだけでナレッジマネジメントに成功するわけではありません。運用前のルールの策定はもちろん、いかにして言語化できない暗黙知を現場に共有するかなどの点に注意しましょう。
ルールを明確にしておく
ナレッジマネジメントを導入するときは、運用ルールを明確にしておく必要があります。たとえば、システムを導入している場合であってもルールが明確でなければ、「スタッフがバラバラな形式で入力してしまう」、「役に立たないデータばかり蓄積されていく」、「入力するスタッフとしないスタッフに分かれてしまう」、「同じようなナレッジが登録される」などのケースが考えられます。全員に有益な情報を集約するためにも、入力方法をはじめとした運用ルールを明確にしておきましょう。
導入後は現場からのフィードバックを反映する
ナレッジマネジメントを導入したことによるメリット、デメリットを把握するために、現場から意見をヒアリングしましょう。ポジティブな意見ばかりではなく、ネガティブな意見もある可能性もあります。ネガティブな意見も貴重なフィードバックとして分析し、反映するようにしましょう。
暗黙知まで可視化できるようにする
看護の業務は暗黙知が多く、言語化しづらい点もあります。そのため、ナレッジマネジメントでは画像や動画など、視覚的にわかりやすい工夫を施して情報を共有しましょう。
簡単に使用できるシステムを選ぶ
看護の現場は多忙のため、スマートフォンやタブレットでも簡単に使用できるシステムを選ぶようにしましょう。多機能なシステムであっても、操作性に乏しいとシステムを導入したものの利用が控えられ、ナレッジマネジメントそのものが形骸化してしまいます。
情報は更新し続ける
ナレッジマネジメントは常に更新し続けることが大切です。ナレッジを古いままにしておくと、新たに起きた事象に対して全スタッフが対応できなくなってしまいます。定期的なメンテナンスや情報更新がしやすいシステムを選びましょう。
スタッフの人数が多いなら一部から導入する
スタッフの人数が多い職場であれば、急に全体に導入するのではなく、一部の部署など限られた範囲でスタートしましょう。急に全体を対象にしてしまうと、うまく運用できなかった場合に、ナレッジマネジメントの取り組み事体がストップしてしまう恐れがあります。ナレッジマネジメントを試験的に導入し、十分に成果が得られた段階でナレッジマネジメントを浸透させていくのがポイントです。
【まとめ】
看護におけるナレッジマネジメントは専用システムで効率的に進めよう
看護職は他の職種と比較すると身体的かつ経験に基づく知識が多いため、共有が難しい傾向にあります。属人化を防ぐためにも専用のシステムを用いて、ナレッジマネジメントを行うようにしましょう。専用のシステムであれば、言語化できない知識も画像をはじめとした図解を用いることで共有可能です。運用ルールの整備をしなかったり、操作しにくいシステムを選んだりするとナレッジマネジメントの導入は失敗します。導入後のメンテナンスや更新なども簡単に行えるシステムを選ぶようにしましょう。これから導入をする場合、限られた範囲でナレッジマネジメントをスタートすることがナレッジマネジメントを浸透させていくコツです。