社員の知識や経験をナレッジ化し、企業の資産として活かす経営手法を「ナレッジマネジメント」と呼びます。1990年代にナレッジマネジメントの基礎となる論文が発表されてから、多くの企業がナレッジマネジメントを導入してきました。しかし、「ツールを導入したものの社員が使わない」、「費用対効果が十分でない」など、ナレッジマネジメントに行き詰まりを感じる企業も少なくありません。ナレッジマネジメントを成功に導くには、ナレッジマネジメントの手法や導入するための手順を知り、自社に合った制度を設計することが大切です。この記事では、ナレッジマネジメントの目的や手法、導入時の注意点について解説します。
目次
ナレッジマネジメントの3つの目的
そもそも、なぜ多くの企業がナレッジマネジメントを実施しているのでしょうか。ナレッジマネジメントの目的は3つあります。
業務改善を実現するため
ナレッジマネジメントを取り入れれば、業務効率化に役立つ知見やノウハウを社内で共有できます。1つの部署やチームだけでなく、部門横断的にナレッジを共有できるため、全社的な業務改善を実現することが可能です。
人材育成を効率化するため
ナレッジマネジメントは人材育成の効率化にもつながります。優秀な成果や業績を収めた社員の成功法則をナレッジ化し、水平展開することで、組織全体のスキルを底上げできます。また、ナレッジマネジメントは熟練労働者の技能・技術伝承にも役立ちます。ナレッジマネジメントを取り入れ、熟練労働者の勘やコツなど言語化しづらい知識を見える化することで、技術・技能伝承をスピードアップできます。
顧客サービスの質を高めるため
コールセンターやカスタマーサポートセンターなど、顧客と直接コミュニケーションをとるフロントオフィス部門でも、ナレッジマネジメントの導入が進んでいます。顧客情報や過去の問い合わせ履歴などをデータベース化し、オペレーターがいつでも利用できるようにすることで、顧客サービスの質を飛躍的に高めることが可能です。
ナレッジマネジメントの4つの手法とその特徴
ナレッジマネジメントの手法は、「ベストプラクティス共有型」、「専門知識ネットワーク型」、「顧客知識共有型」、「知的資本集約型」の4つに分けられます。それぞれの手法の特徴や強みについて解説していきます。
業務改善を目指すベストプラクティス共有型
ベストプラクティス共有型とは、社内の成功事例(ベストプラクティス)を共有し、業務改善を目指すナレッジマネジメントです。ナレッジマネジメントの流れとしては、過去事例を掘り起こして成功事例を発見し、社内の情報システムに集約して社員が利用できるようにします。たとえば、優秀な社員のスキルやノウハウをベストプラクティス化しやすい営業部門の業務改善に向いている手法です。
課題解決を目指す専門知識ネットワーク型
専門知識ネットワーク型のナレッジマネジメントは、課題解決をスピードアップするための方法です。専門知識をデータベース化したり、高度な技能を持つ社員をネットワークで結んだりすることで、課題解決のヒントをすばやく探しだせるようにします。たとえば、FAQ管理システムを導入し、専門知識をよくある質問(FAQ)の形でデータベース化するといった運用例があります。
顧客サービスの改善を目指す顧客知識共有型
コールセンターなどのフロントオフィス部門に向いているのが、顧客知識共有型のナレッジマネジメントです。顧客知識共有型では、社内のさまざまな部門で顧客データを共有し、一元管理することを目指します。たとえば、「担当者が不在のときに問い合わせ履歴を確認し、別の社員が対応する」、「営業社員がわからない点を開発部門に質問し、サポートしてもらう」など、データの連携により顧客サービスの改善が可能です。
収益アップを目指す知的資本集約型
社内ナレッジの有効活用によって収益アップを目指すのが、知的資本集約型のナレッジマネジメントです。知的資本集約型では、特許や製造技術、営業ノウハウなどの有用な知的資産を集約し、互いに組み合わせることで、新たな付加価値の創出を目指します。
ナレッジマネジメントを導入するための手順
ナレッジマネジメントの導入ステップは大きく4つに分けられます。ナレッジマネジメントを取り入れるのが初めての方は、まず導入までの流れを確認しましょう。
- ナレッジを見つける
社員へのインタビュー、従業員サーベイの実施、過去事例の掘り起こし、コンペやコンテストの開催など、さまざまな手段を通じてナレッジを見つける
- ナレッジを蓄積する手段を検討する
発見したナレッジをドキュメント化し、蓄積するための手段を検討する
- ナレッジを共有する仕組みをつくる
蓄積したナレッジを社内で共有し、全社横断的に利用できるような仕組みをつくる
- ナレッジの活用を促進する
共有したナレッジを組み合わせ、課題解決や意思決定に活かす
ナレッジマネジメントを導入する際の2つの注意点
ナレッジマネジメントがうまくいかないケースとして、たとえば次のようなものが挙げられます。
課題 | 原因 |
ナレッジが共有されない | ・社員にナレッジを共有する意欲がない ・社員がナレッジを共有する方法を理解していない ・ナレッジの共有に時間や手間がかかる |
ナレッジが活用されない | ・共有したナレッジを探しづらい ・社員がナレッジを見つける方法を理解していない ・欲しいナレッジが蓄積されていない |
こうした課題を解決するためには、「ナレッジ共有システムを活用する」、「ナレッジ共有を仕組み化する」の2点に注意する必要があります。
ナレッジ共有システムを活用する
紙やExcelでのナレッジマネジメントは、ナレッジの共有に時間や手間がかかります。ナレッジマネジメントの手法に合わせて、ナレッジを効率的に共有可能なITサービスを導入しましょう。たとえば、次のようなナレッジ共有システムがあります。
機能 | |
FAQ管理システム | ナレッジをよくある質問(FAQ)の形で整理整頓し、必要なときに参照できる |
グループウェア | メールやチャットでのコミュニケーション機能や、資料やファイルの共有機能など、ナレッジ共有に必要な機能がワンストップで利用できる |
データマイニングツール | 紙の資料や問い合わせ記録などをAIで分析し、自動でデータ化できる |
エンタープライズサーチ | 社内の情報システムやデータベースを横断検索し、必要な情報を必要なときに取り出せる |
ナレッジ共有を仕組み化する
ただナレッジ共有システムを導入するだけでは、社員が利用してくれません。ナレッジマネジメントを導入する理由を説明したり、ナレッジ共有のルールを設定したりして、ナレッジ共有を仕組み化しましょう。また、誰でも気軽にナレッジ共有システムを利用できるよう、ツールの使い方をマニュアル化することも大切です。
【まとめ】
ナレッジマネジメントの代表的な手法を知り、自社のカラーに合った制度の導入を
ナレッジマネジメントには、「ベストプラクティス共有型」、「専門知識ネットワーク型」、「顧客知識共有型」、「知的資本集約型」の4つの手法があります。それぞれ解決可能な課題が異なるため、自社のニーズに合ったナレッジマネジメントを導入することが大切です。ナレッジマネジメントを導入するときに必要不可欠なのが、ナレッジ共有を促進するためのITツールです。FAQ管理システムやグループウェア、データマイニングツールやエンタープライズサーチなど、ナレッジマネジメントの手法に合ったITツールを導入しましょう。