企業競争力の向上のため、「ナレッジマネジメント」を取り入れる企業が増えています。ナレッジマネジメントは日本発の経営手法で、社内に眠る知見やノウハウを掘り起こし、ナレッジ化して全社的に共有する方法を指します。1990年代初頭にナレッジマネジメントの基礎となる考え方が発表されて以来、小売業やサービス業、製造業、運輸業など、さまざまな業界でナレッジマネジメントの導入を試みました。しかし、ナレッジマネジメントの導入がうまくいかず、社内ナレッジを経営資源として活かしきれない企業も少なくありません。この記事では、ナレッジマネジメントの導入プロセスや、ナレッジマネジメントの実践に欠かせないITツールの活用メリット、ナレッジマネジメントを推進するときの注意点やポイントについて解説します。
ナレッジマネジメントを導入する3つのプロセス
ナレッジマネジメントを導入するにあたって、まず必要なのが「導入目的の明確化」です。ナレッジマネジメントを導入するための3つのプロセスを解説します。
まずはナレッジマネジメントの導入目的を明確化しよう
まずは、なぜナレッジマネジメントを導入する必要があるのか、導入目的をきちんと明確化しましょう。たとえば、製造業の場合は熟練職人の勘・コツをナレッジ化し、技能伝承の促進のためにナレッジマネジメントを導入するケースが想定されます。また、近年はテレワークやリモートワークの普及により、オンラインとオフラインの双方で社内ナレッジにアクセスできる場をつくるため、ナレッジマネジメントに取り組む企業が増えています。ナレッジマネジメントを導入する前に、社内ナレッジを共有することで、どのような目標を達成したいのかを考えましょう。
どのようなナレッジを共有するのか検討しよう
次にナレッジマネジメントの導入目的から逆算し、どのようなナレッジを共有するのか検討しましょう。なるべく社員の声を聞き、現場が本当に欲しいナレッジを対象とすることが大切です。一般的に、共有すべきナレッジとして次のようなものがあります。
- 業務効率化につながるタスクやスケジュールの情報
- 顧客データ
- 営業活動のベストプラクティス
- 問い合わせやクレームの対応履歴
- 伝票・報告書・ドキュメント
- 開発中の設計図やソースコード
ただし、個人情報や機密情報など、プライバシーやセキュリティの観点からアクセス制限をかけるべき情報もあります。
実際の業務フローにナレッジマネジメントを落とし込む
共有すべきナレッジとそうでないナレッジのふるい分けを行ったら、実際の業務フローにナレッジマネジメントを落とし込みます。従業員が無理なく日々の業務をこなせるよう、業務フローの見直しを行うことも大切です。一例として、一日の終わりに書く業務日報をナレッジの発表の機会として活用する方法や、定期的に社員が業務ナレッジを報告する機会を設け、優秀なものを表彰する「ナレッジ共有コンテスト」を開催する方法などがあります。
ナレッジマネジメントツールを導入する3つのメリット
ナレッジマネジメントを効果的に実践するには、ITツールの活用が必要不可欠です。社内ナレッジの蓄積や、情報共有の促進に役立つツールのことを「ナレッジマネジメントツール」と呼びます。ナレッジマネジメントツールを導入する3つのメリットを紹介します。
業務に必要なナレッジをすばやく共有し、「業務の属人化」を防ぐ
業務の属人化とは、業務の進め方が特定の担当者にしかわからず、ブラックボックス化している状況を指します。業務の属人化が進むと、担当者が休職や退職した際に代わりがおらず、業務品質の低下につながります。しかし、ナレッジマネジメントツールがあれば、業務に必要なナレッジをすばやく共有できるため、特定の担当者に依存せず業務を進められます。
ベストプラクティスを水平展開し、生産性を改善できる
ナレッジマネジメントツールを導入すれば、成績優秀な社員や営業成績トップの社員のノウハウを水平展開し、全社的に共有できます。各社員の成功体験からベストプラクティスを引き出し、他の社員に伝えていくことで、組織全体の生産性を改善できます。
顧客情報や問い合わせデータを共有し、顧客対応力を高められる
ナレッジマネジメントツールのなかでも、顧客管理システム(CRM)を導入すれば、膨大な顧客情報や問い合わせデータを収集し、部門横断的に共有できます。問い合わせ対応の際に過去の問い合わせ履歴を参照したり、商談の進捗状況をチーム全体で管理したりすることで、顧客対応力を高めることができます。
ナレッジマネジメントを推進するための3つのポイント
ナレッジマネジメントは大企業だけでなく、中小企業やスタートアップ企業も導入可能な経営手法です。ナレッジマネジメントを推進するときのポイントを3つ紹介します。
ナレッジマネジメントに取り組む意義を社員に伝える
ナレッジマネジメントの推進にあたって、まず社内ナレッジを共有すべき理由や、社内ナレッジを共有することで得られるメリットを全社員に説明しましょう。優れたナレッジを蓄積するには、社員が進んで知見やノウハウを提供してくれるように組織風土を変えていく必要があります。社内FAQや社内wikiといったナレッジ共有システムを導入するなど、社員が手軽に知見やノウハウを伝えられるような仕組みづくりも大切です。
スモールスタートを心がけ、段階的にナレッジマネジメントを推進しよう
ナレッジマネジメントを社内に浸透させるためには、一定の時間がかかります。そのため、一度にナレッジマネジメントを導入しようとするのではなく、段階的に目標を設定し、できる範囲で推進していくことが大切です。ナレッジマネジメントのよくある失敗事例が、「トップ主導で強引に組織風土改革を推し進めた結果、現場の社員の理解を得られず、有用なナレッジが集まらない」というケースです。ナレッジマネジメントに取り組むときは、なるべくスモールスタートを心がけましょう。いきなり全社的に実施するのではなく、特定の部署で実証実験を行うなど、慎重にナレッジマネジメントを導入することが大切です。
「ITツールの活用」がナレッジマネジメント成功のカギ
ナレッジマネジメントを成功させるには、「ITツールの活用」が欠かせません。紙ベースのナレッジマネジメントの場合、必要な情報を探すのに時間がかかるだけでなく、書類を保管するコストやスペースも必要です。しかし、ナレッジ共有システムなどのITツールを活用すれば、インターネットを通じ、他部署、他支店などからいつでもどこでもナレッジにアクセスできます。コロナ禍により急増したテレワークやリモートワークにも対応可能です。ナレッジマネジメントを取り入れるときは、ナレッジ共有システムの導入もセットで検討しましょう。
【まとめ】
ナレッジマネジメントの導入プロセスを知り、ITツールを効果的に活用しよう
競争優位性を確保するため、大企業だけでなく中小企業やスタートアップ企業も「ナレッジマネジメント」を取り入れるケースが増えています。ナレッジマネジメントの導入にあたって、まずナレッジマネジメントの導入目的を明確化し、蓄積すべきナレッジとそうでないナレッジのふるい分けを行うことが大切です。また、ナレッジマネジメントを効果的に実践するため、ITツールを積極的に取り入れましょう。CRMや社内FAQ、社内wikiといったITツールを活用し、知見やノウハウをデータ化することで、紙ベースのナレッジマネジメントよりも効果的に社内ナレッジを共有できます。